創作小説 < アイツ・3 >

( この話はフィクションです )

アイツと郁(かおる))

明日は文化祭と言う日の放課後 大勢の父兄が見学に来るからと花壇を綺麗にする

為に園芸部の仕事をして、その日は何時もより遅くなった。

通学路の違う美枝と別れて学校を出ると橋を渡りかけた時 橋の向こうに男女1組

の二人が肩を並べて歩くのが見えた。よく見れば幼友達で親友の郁とアイツの二人

だった。二人の通学路は橋を渡り終え右折それからは道なりに行くのだが私も

通学路は一緒だけれど私は、橋から二百メートル程からは幹線道路を外れて山の

方角へ百メートル位歩いて山をほんの少し登った中腹に自宅があった。

郁とアイツは幹線道路を徒歩で1km以上、郁は10数件ある市営住宅の1軒が自宅

で、父親が裁判官のアイツは市営住宅を少し過ぎた松林の中の

官舎が住まいであった。つまり郁とアイツはご近所さんである。

郁もアイツも背が高く頭が良いせいか歩く姿は凛として肩を並べて歩く二人を見て

「お似合いだ」と思ったのだった。普段の私なら走って二人に追いつき声を

かけるのだが、その日は"お邪魔してはいけない”と思い、歩調を変えなかった。

丁度道路から山の方へと曲りかけた処で郁が振り向き私に気がついて

軽く手を振ったら、きびすを返すようにして歩きだしたのに、アイツ一息遅れて

振り向くと暫く私の方を見ていた、郁だけが早足でアイツと距離ができてるのに、

アイツ前進する事なくこちらを見ていた。私、アイツのそんな様子を斜めに見な

がら自宅についた。いつの間にかアイツは見えなくなっていた。

 次の朝、学校に着くと靴置き箱で靴を脱いでいると背後からアイツ

「昨日、何故追いついてくれなかったの」と思いがけない言葉をかけられた

私は「つい」としか答えられず「そんなのは君らしくないよ、らしくない」と、

怒っている様子は、次からはそれは「許さないから」ぐらいの語調があった。

 

 My 家族 )

 我が家は中途半端な農家であった。と、言うのも専農、半農の区別をつけ難い。

 父は、時に間知石の石切、時に炭焼き、時に米作り農夫であって、時に他の

農家へ農機具持参の助っ人である。

 母は、時に塗装屋、時に炭焼き助手、時に米・野菜作りの農婦であり、

他家の農業仕事のお手伝いである。

 祖父は、六十歳迄は船大工、その後は山仕事、そして土曜日は、山で収穫した

沢山の木や花を自転車に乗せ、檀家のお寺に行き大きく沢山の花瓶に独特の花を

生ける人で、時にセーターやマフラーの手編みもする変なお爺さんである。

 祖母は、野菜作りの名人 一週間に一度野菜を置いてくれ近くのお店で

店番をもする人である。

 家族全員が働き者に係わらず、我が家は貧しい家であったのは何故なのか

それは多分皆が不器用だったからとしか思い様がないのである。

 両親の子供は私一人 一人っ子であるが 8才~28才違いの叔父が三人 

叔母が二人いるので一人っ子の自覚は無い。叔父叔母は夫々が結婚や就職をして

家を出ているが皆が親密に連絡を取り合って大家族である。

特に叔母二人は、市内で結婚度々家に訪れて賑やかな家族でもあったが、

皆仕事に明け暮れる日々を送ったが不思議な事に

お金とは縁の薄い家族でもあった。

 

 そして校長と、)

 文化祭が終って数日が経った日の放課後、担任から校長室に行く様に言われて

行くと、校長「君は、字には興味ありませんか」と聞かれて突然の事で戸惑って

いると「私と一緒に字の勉強をしませんか、いえね 先日園芸部の日誌を見て君の

字は素直な良い字だと思いましてね、一緒に字の勉強をして貰えないかと

思いまして、ここにお手本を書きましたから、ここの用紙に書き写して何時でも

良いからそれを私に見せて下さい」と、私は何と無く「やっても良いか!」と

思って無意識の内に校長に手渡されるままにそれを受け取っていました。

 ボールペンでも鉛筆でも良いと言われていたので一日に1~2枚をボールペンと

鉛筆で書いた。一週間すると園芸部の仕事で校長から「少しは書けましたか」と

聞かれた 書けたら明日放課後校長室に持って来るように言われたので持って

行くと添削してくれた。一週間か10日に1度書いたものを持って来る様に、

その時は自ら書いてお手本を見せてくれた。

そして校長室に校長が留守の時は家庭科の顧問 中村先生に渡すように言われた。

時には書式が変わり用紙も違う物が渡された。母にそれを伝えると「それはお金が

掛ってるね、お支払いしなければいけないのと違うの 一度校長先生にお尋ね

しなさい」と言われて校長に「用紙代とかのお代金をお支払いする様に母に

言われました。」すると校長「お母さんには要らない御心配をお掛けしたね。

余分に沢山ある用紙でね。君が使ってくれなかったら処分するものだから

心配しないように伝えて下さい」と言われて母に報告したのだあった。

そらから三ヶ月ほど過ぎて「これは以前私が使っていた物で押入れの肥やしに

なっていたんだが、君に進呈しよう」と言って

硯や筆 そして文鎮と布の下敷き毛筆用の道具一式が手渡され、沢山の半紙と

お手本が紙袋に入れられて「要らない心配は無用ですよ」との言葉が加えられて

渡された。

私は硬筆と毛筆に夢中になったが。学校の宿題と手伝いに手を抜く事も無かった。        

                                つづく

 

今回漢詩は、王維の「送別」を選びました。

 

  ( 送別 そうべつ )

   下馬飲君酒 問君何処之 

    君言不得意 帰臥南山陲 

   但去莫復問 白雲無尽時 

     < 王維  > 

 

読み)

馬をおりて 君に酒を飲ましむ

君に問う いずこぞゆく所はと

君は言う 意を得ず

南山のほとりに きがすと

ただ去れ また問うなからん 

白雲 尽くるの時なし

 

 

( 私の解釈)

「不意得=意を得ず」世の中が上手く行かないの意味。

「帰臥=きが」とは、帰って休むの意味。

 

馬を下りた君(友)に酒を進める

君に「何処へ行くのだ」と聞けば

君は「世の中が上手く行かないから 南山のふもとに

帰って休みます」と言う

もう何も聞きません さあ 行ってください

あなたがこれから行くところは いつも白雲がたなびいていて

心、穏かに過ごせるでしょう

 

 

2022/6/25  和珞書く