創作小説 < アイツ・Ⅰ >

( ※この話はフィクションです )

 アイツと初めて会ったのは、中学一年生の夏休みが終り二学期の

始業式の日だった。教壇に立って担任に紹介されたアイツは、背が高く

後に皆が言う、牛乳瓶の底の様な眼鏡をかけていた。

最初の印象としては「なんと覇気の無いヤツか」と

決められた席に就くと隣近所の席の人達に、笑顔で自分から声を掛けて

挨拶をするアイツを見て直ぐに”覇気の無い人“のイメージは“人懐こい“

に変わった。直ぐにアイツはクラスの人気者になって何時も数人

のクラスメイトが取り巻きになっていた。

私は席も離れていたので口を利くことは無かった。

 

 クラブの園芸部の仕事は月に数回、その他の日はクラスメイト達が

部室へそしてユニホームを着て運動所・体育館へ行く姿を横目に

見ながら帰宅へと、帰宅部とはあまり変わらない生活をしていた。

ある土曜日学校から徒歩で五分程の自宅に着くと、品の良い柴犬を連れて

ラフな格好をした中年男性が自宅前で“待っていました!”

かの様に声を掛けてきた

「お芋とトマトを頂きに来ましたが貴方には分かりますか?」と

聞かれ、そう言えば今朝方祖母に「男の人が来たら冷蔵庫のトマトと

野菜倉庫の前に置いてあるお芋を渡して上げて。」と言われたのを思い

出す。「分かります 直ぐ持って来ますね。」と返事、渡して代金を受け

取ると「内の息子と同じ学年とお祖母さんに聞いていますよ。」

「えっ?」「司と申します」あ~アイツかと直ぐに気がつく

「同じクラスなんです。」と返事「お世話になります。宜しくお願い

しますね」と挨拶を頂いたものだから「いえ、こちらこそです。」

なんてこの挨拶で良かったのかなあと考えてみた。

連れていた柴犬が頭を上げて此方側を向いて嬉しそうだから、挨拶を

しておかなければと思い、頭を撫でれば紳士は「動物がお好きな

様ですね。」「はい、内にも猫2匹と鶏が数十羽と山羊が3匹いますから。」

「鶏に山羊ですね。」と笑いながら頭を軽く下げながら「お祖母さんに

宜しくお伝え下さい。」とこの田舎では普段皆が言わない挨拶を頂いた。

そして男性は柴犬と共に帰って行った。

野良から帰った祖母に「言われた通り渡したからね。」と代金を渡すと

「あの人は裁判官さんなんだよ お店では奥さんがね必ず買ってく

れてね。特に芋とトマトが好きだそうな。」

祖母は、2km程離れた幹線道路上にある、主に食品を扱う小さな店で

野菜を置いて貰う変わりにその店で週に一度店番を頼まれていた。

彼の両親、特に母親はその店の常連客らしかった。

その日は新鮮トマトが要望で二品の注文を受けての事だった。

父親が裁判官か?それでアイツは私の知っている友達とは

雰囲気が違うのだな~と思ったのである。

 

 日曜日は大抵同じ学校の友達、友達では無いに係わらず数人の男女

が卓球台目当てに我が家に集る。敷地は広く球がどんなに飛んだと

しても他人に全く迷惑を掛けない。口煩く言う人もいない。

その他多くのメリットが満載だからだ。

毎週毎回必ず訪れるのが安藤(男子)!安藤とは小学校一年生の時から同じ

学校で所謂”幼友達“であって安藤の母親は祖母の勤める店の

大のお得意様さんで祖母とは仲良しで家族ぐるみの付き合いでも

あった。卓球台を敷地内の納屋から出したり準備する指図は、

勿論何時も安藤だった。ある日、安藤に誘われて初めてこんな我が家

にアイツが訪れたが、友達と楽しそうに話はするが一向に卓球に

加わろうとしないのである。東向きで東南にくの字型の家は余程

の事が無い限り開けっ放しの縁側に座り嬉しそうな顔をして

卓球をする皆の様子を見るか、カバンから本を取り出して読んで

いるかであった。

私も日曜日は母や祖母から言い付けられた仕事があってたまに卓球の

仲間に加わったが、本音を言えばスポーツは苦手であった。

アイツもスポーツは苦手では無いかと要らぬ詮索をした。

午前は10時過ぎぐらいから夕方は5時位までは、人の入替えはあっても誰か

が必ず居て、飽きもせず卓球を楽しんでいた。

 その日はアイツも弁当持参で夕方までいて帰り際、家族は畑に

行って他誰もいないので「ありがとう。」と私に挨拶をする。

そんな挨拶は他には誰もしてくれた事は無い「またな~」だったが、アイツは

丁寧だった。驚いて「い~え どういたしまして」と返事をすれば「又来ても

いいかな?」「いいよ いいよ いつでも来て お構いはできないけれど」と

私縁側に座るとアイツも横に並んで座り「俺、スーパーマンみたいな正義の味方

の弁護士になりたいと思ってるいるんだ」

「司君ならきっと立派な弁護士になれると思うよ。」と言えば

「ホント?本当にそう思ってくれる?」とまるで子供みたいに、

輝いた綺麗な目をしていた。私は深く頷いた。

安藤と一緒に帰りながらアイツだけが後ろを振り向き、

大きく、大きく手を振っていた。

私は恥ずかしくて小さく手を振り返した。つづく

 

 

 最後までお読み頂きまして、有難う御座いました。

この作品は、子峰院のTwitter では無い個人アカで140字以内に

日々ちょろちょろと書いていった作品ですが、140字では

使用言語には制約が多過ぎ心行くまで書けずに不満が残りました。

 当時フォロワーさんも徐々に増えかなりの方から応援頂きました。

書き終えて数ヶ月でフォロワーさんは激減した事で楽しんで

頂けたと感じ、今回又キチンと書き直そうと子峰院のブログを

お借りして、お邪魔しない程度に書いて行きたいと思っています。

 

5月28日に書いた、子平学・四柱推命に関する最新のブログです。

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(和珞