< アイツ・23 >

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<アイツ・23>

勝は、市内で四駅ある中でも急行や特急が止まるたった1つの

故郷の駅ホームに早朝降り立つと、懐かしい磯の香りが優しく

鼻の中をこれでもかこれでもかと通り抜けていくのを心地良く

感じながら改札へと向かへば、柵の向こうの小さなロータリー

でこちらに手を振る安藤が見えた。

懐かしい顔に直ぐ

-こんな早朝に迎えに来てくれたんだ- 

と気がついた、手を振り返し改札で切符を渡してから安藤の

元へ行くと、「お帰り!お疲れ様、荷物があると思って前籠が大き

い母ちゃんの自転車を借りて向かえに来た」「ただいま!有難う」

自転車の前籠に荷物を載せ後ろに横座りに乗ると「確り掴まって

前籠の荷物で揺れるかも知れんから」と言うので、安藤の腰に

手を回して掴まった。「今日は日曜日でも無いのに、おばちゃん

自転車が無いと困ったでしょうに」「可笑しな格好で俺の自転車に

またがって行ったど」「小母ちゃんには悪かったね」「言い出しっ

ぺやからな」「逢ったらお礼言わんなね」

自転車が大橋に近づいた時勝は緊張したが、自転車は何事も無かっ

た様に静かに大橋を走り抜け自宅の方向に向かった。自宅に着くと

家族は「お帰り!」と明るい笑顔で「朝御飯はまだやろ、用意は

出来てるけん食べなさい」と母親が、

安藤を見れば静かに卓袱台に向かって用意していた朝食を

「頂きます」と言って食べ出している、それを見て勝は

-何か変-、だと思ったが言葉にはしなかった。

朝食を食べ出せば父親が今までに無くべったりと横に座って

「まさちゃん!」と猫撫で声を出して「よう帰ってきたね、

父ちゃんは、半年が1年になっても良いとゆうたが、

まさちゃんがもう一生帰ってこんような気がして、馬鹿な

事をゆうてしもうたと思うちょったんで~」すると母親が

「まさちゃんがおらん時はな、皆が来てくれて賑やかかった

よ」父「なんゆうか、みんな・みんな!皆がまさるの変わりが

出来るんか、わしにはまさるしかおらん!」と母親と父親が

入れ替わったのでは無いかと思うほどで、祖母は後ろにチョン

コンと座って、振り返れば無言で嬉しそうにお茶を飲んでいた。

安藤はその中で黙々と人んっちのご飯を食べながら大きな声で

「おかわり!」と、母親はにこにことお変わりのご飯を盛り

味噌汁を注いだ。「安藤、仕事は?」「仕事は二勤交替やけど

俺は父ちゃんと同じ職場やけん、父ちゃんはいい歳やから俺が

夜勤だけを選んで父ちゃんには日勤にして貰った」「そしたら

夜勤明けで迎えに来てくれたん?」「いや、昨夜は休んだから

心配はいらんから」「そうか、ありがとうね」「な~も」

仕事)

安藤は、夜勤の為に午後は床に着くと言って帰ってから

母が「まささん、仕事の口があるんやけど、北村設計事務所

所長さんがおいでて、仕事を手伝って欲しいとゆうとったよ、

それも来月から、書道教室の日は半ドンでも休んでくれても

良いと、言ってくれてたけんど、又、改めて近いうちに訪ねて

来てくれるそうやで、良いお話だと思うけんど」

「会って話しを聞いてからやね」と答えた。

母は勝るが留守をしていた六ヶ月間の我が家での出来事を、楽しそ

うに話してくれた。書道教室は桂子が主に手伝ってくれ、頻繁に

伊藤先生が顔を出して生徒達に丁寧な指導をしてくれ、伊藤先生

を知る人は「偉い先生に教えて貰ろうた」と喜び、子供達はさも

親しげに教えて貰っていたと、母の話しぶりが面白く腹を抱えて

勝は笑った。伊藤先生は我が家の夕食が気に入り、誘いを断わる

わけでもなく「遠慮なく頂きます」と言って居座り、母親は

その献立に大慌て、しかし大した食材も無く鯵の刺身や南蛮漬け、

大根の漬物、キュウリやトマトを切っただけのものにただ醤油を

かけたり焼きナスにたっぷり鰹節をまぶしたり 野菜の天ぷら

と簡単な料理を毎回喜んで食してくれるのだと言ってケラケラ

と笑い、伊藤先生は桂子に熱心に指導していた事も話してくれた。

来る時は雪駄を履き歩いて来るのだが、夕食を済ませての帰りは

どうしても暗くなる為、燐家の潤子の兄の典孝が自動車で送って

くれると、桂子は手伝ってくれる伊藤先生にも報酬を渡そうと

すると先生は遠慮するけど、その勝敗は桂子が勝ち、先生は受け

取る事になり、それを食費にと母に渡してくれたが、

どうしたものかと思案したとかで、勝が帰って相談する事にした。

と話してくれた。

「母さんには、かなりきつい思いをさせてしまったみたいね、

ゴメンネ そのお金は遠慮なく頂いといて良いよ。貰っても

良いお金だから貰っといて」「そうかね そうしとくわ」

-母の事だから又皆の為に使う事になるだろうな~-と、

勝は思ったのであった。

 

数日が過ぎ、

安藤と郁が一緒に顔をでしてくれ「お帰り!どう?落ち着いた?」

と郁「ありがとう。すっかりね」「そりゃ、良かった」と郁

三人して縁側に座り、大阪でのアイツと別れた日の事を包み

隠さず二人に勝るが話せば、郁「まさるは、もう帰って来ないかも

知れないと思っていたから期待はずれ、でも帰ってくれて私的には

嬉しいわ。だけどあんた達ってそこまでの関係だったのか?人生を

大事に至らせなかったけど、節度があって偉い偉い、二人共

大事な夢があるからね」と意味不明な事を言って

「うじゃ、私帰るわ、又ゆっくり来るし」とスーパーマン

様に帰って行った。

それから安藤はゆっくりと話し出した

「それでまさるは納得したんか?」「エッ?」

「いやな俺は司には、受験勉強の時ヤツが忙しいのに真剣に勉強を

見てくれたから、ありとあらゆる言葉でお礼を言ったけど、まさる

は司を無秩序なままにしておいて良いのかな それで後悔なんか

せんか?そりゃ転校したての頃大柄なところはあったけど、

それからはどうだった?特に生徒会長になってからの司は学校中

いや、少なくても俺ら同学年には色々尽くしてくれた御蔭で、皆

楽しい思いをさせてもらったり変われたよな、思い出してみろよ

司も俺達に逢って変わったかもしれんけど、俺だってまさる

だって司に逢ってから変わったよな」と話した。

勝は言われて考えるとそうだった

-私もアイツに逢えたから生徒会役員の書記になりこうして

道教室開設する勇気が持てたし積極的な人間になれた。

もし、アイツに出会う事が無ければ酷い頑固で消極的な人間に

なっていただろう-、と思うとそら恐ろしくなった。

勝は、「ありがとう。今夜ゆっくり司君に手紙書くわ」

「其れが良いよ。司も元気が出ると思うよ」と言った。

-安藤は、平和的で気楽な人間-、と思うところがあったが

それは間違いだったと気付かされた。-繊細な人なのだな-

と初めて思い尊敬に値する人だと気付かされたのであった。

その夜勝は、下書きを何時間もかけて手紙の清書をした。

 

知り得た同級生の情報や身近な人達の暮らしぶりを書き、

アイツが残してくれた、生活に工夫を取り入れる事や意気込み

を思い出話を交えて勝なりに丁寧に書き、皆でそれらを守り

大事にする誓いの気持ちを綴って投函した。

 

数日後アイツから封書で返事が返って来たが、割に短文だった。

 

勝と別れてから喪失の日々を数日送り、学友達に誘われた

ピクニックで、その気持ちは少しは救われたが、

今一もんもんとした日々を送っていたところに、勝の長い手紙

を貰って元気になれた。

 

と書いてあり、これからは故郷の皆が司法の事で困った事があれば

スーパーマンになって助けに行ける様に頑張るから。とジョークを

交えながら

そして、手紙を有難う。今の気持ちを忘れない為にも、

この手紙は、僕の宝にします。と

書いてあり、勝も救われた気持ちになれた。

-安藤にはこれから頭が上がらない?わたし、そんな事が

あって良いものか-、と

考えると、勝は可笑しくなって一人で微笑んだのだった。

 (アイツ・23)お わ り 

       そして まだ 終われない。

子峰院・和珞の創作小説でした。