創作小説 < アイツ・2 >

校長先生)

 二学期は体育祭や文化祭 そして二年生は生徒会委員の選抜選挙等が

あって学校は何やら慌しい様子だったがスポーツは嫌いで体育祭は

無ければ良いと思うくらいだし、文化祭にも興味が無く、生徒会も

二年生の問題で毎日が何と無く過ぎて行く感じであった。

 そんなある日の事、日本史の授業時間席の周りが私語で何やら賑やか

くそれは一向に止む気配がありそうに無い、その時教科担任の羽田

先生は数名の名前を呼び上げ「放課後、教員室に来なさい」

なんと その中には私の名前も入っていたが仲間に入っていなかった事

を話せばきっと解って貰えると言う考えは、どうも甘かったらしい

「職員室前の廊下に三十分立っていなさい 三十分したら職員室の私

のところに来て反省謝罪した人から順に帰ってよろしい。」と、

言い訳は受け入れて貰えず職員室の前で立っていると他の先生達は

にやにやと面白そうな顔をして職員室を出入りしていく。

三十分経つと経たされたクラスメイト達は皆そそくさと職員室へと入って

いったが、何も悪い事をしているつもりでない私だけ、三十分経っても

謝るつもりは無く〝なる様になる〟の気分で一人で立っていると、クラス担任が

来て「謝らなければ帰れないぞ」と言ってきたが「私は、お喋りはして

いません」と断わった。暫くすると廊下向こうの校長室のドア

の前から校長が私の方を向いて手招きをしている。反対方向を見ても

誰もいないので私を呼んでいると思い、校長の側に行くと「入りなさい」

と校長室に招いてくれた。部屋に入ると内線電話でなにやら電話をすると

椅子に座るように勧められ、同時にお互い近くの椅子に座った。

学年とクラスに名前を聞かれたが、立たされた理由は聞かれなかった。

部屋をノックする音がして校長が対応、「学校向かいの君達がよく

お世話になるお菓子屋さんで買って来て貰ったからお上がりなさい。」

と言って ソフトクリームタイプのアイスを渡され 校長先生と頂いた。

解かさない程度の速さで食べ上げて「ご馳走様でした。」

「美味しかったか?」「はい」「もう帰って良いからね」「羽田先生には

僕から君と羽田君の面目が立つ様に上手く計らっておくよ」と言って

部屋のドアを開けてくれた。私はお辞儀をして校長室を後にした。

 

園芸部)

 園芸部の部員は、クラス違いの同級生の美枝と二人きりで、仕事は

校庭周りの花壇全般で草抜きや花の植え替え等で活動は地味であった。

小さな草が生えて二人で校庭裏の花壇の草取りをしていた時だった。

校長が訪れ二人が驚くと「私も草木が好きでね、これから部員の一人に

加えて貰う事にしたけど許可を頂けるかね?」と聞かれて二人は、一人

でも多くの人手は助かる「お願いします」と間髪入れずに返事をした。

校長先生一人が天を仰ぐ様にして大笑い。二人の行動が大受けした訳

だ。何時もより仕事は速く終った。まだ秋の日の作業は汗が額から

落ちる。校長先生は首にかけた手拭で汗を拭きながら「ご苦労さん。」

と言って、土で汚れた軍手をはめた手を振って去って行った。

美枝は「校長先生って恐い人かと思っていたけどズッコケル程面白い

人ね。これからの園芸部が楽しみになってきたわ」と大喜び

私も「同感!」と言い なにかこれから先が途轍も無く良い事が

起きそうな予感がしてきたのであった。

 

アイツ)

 毎日曜日は相変わらず 我が家の庭は卓球台に蝿の如くまつわる若者達

で溢れていた。アイツも午前中か午後の何れかだったり、弁当持参で

一日中であったりと時折訪れて、卓球に加わらず雰囲気を楽しんでる

のかさっぱり訳の解らぬ人で、その時間は本を読むか勉強しているかで

あった。ある日尋ねてみた。「卓球はしないの?」と、アイツは直ぐ

に私が知りたい事が解ったみたいで「ここは何時も風が気持ち良くって

落ち着いて本が読めるし勉強も出来るからね」と。

我が家の庭先の冬をまだ知らないアイツに「そうなんだ、ここはね冬も

暖かいよ。卓球は十才も違わない叔父達の代から今までずーと続いて

いて、それも春夏秋冬休まずに」アイツ「不思議な場所だね」

 おやつに祖母は蒸かし芋を皆に出してくれた。アイツ「僕は、ココンチ

のお婆ちゃんのお芋大好き!」と言うものだから祖母は「皆好きなだけ

食べなさい、ウチには芋が沢山あるからね」と嬉しそうに、

それでアイツは「夕飯食べられるかな?」と言いつつ、

大きな蒸かし芋を二個も遠慮無し気に幸せそうに食べた。

「秋の日は釣瓶落し」皆がカラスと一緒に帰る頃、

アイツも一緒に帰っていった。         つづく

 

 

今回も最後までお読み頂きまして有難う御座います。

“最後まで読む〟一寸信じ難い感もありますが・・

懲りずにに書き続けて行きます。 

次回も宜しく。(和珞) 2022/6/11 

 

 

 子平学を暫く勉強すれば、漢文を勉強したくなる人が少なからず

います。そうした人の為に漢文を初心者でも理解しやすい資料作り

をしています。平岡滴宝式子平学を学んでくれる人の為に残したい

との思いからです。漢詩を書いてみました。李白の詩です。

声を出して読むとそこには中国ロマンがあります。

 

( 春夜洛城聞笛 )

誰家玉笛暗飛聲

散入春風滿洛城

此夜曲中聞折柳

何人不起故園淸 

 李白

 

読み)

しゅんや らくじょうに ふえをきく)

誰が家の玉笛(ぎょくてき)ぞ暗に声を飛ばす

散って春風に入りて洛城(らくじょう)に満(み)つ

この夜曲中 折柳(せつりゅう)を聞く

何人(なんびと)か故園(こえん)の情を起こさざらん

 

※「折柳」とは別れの曲